四季折々(日々彦の文芸欄)

日々彦の詩歌句ノート、随筆、講演、紀行文など

◎「NHK俳句」2021年2月度(日々彦備忘録)

▼2/7NHK俳句。題「梅見」。選者・は小澤實、司会・戸田菜穂。

 ゲスト小野あらた (リモート出演)、レギュラー・宮戸洋行。

・強さうな鳩がをりけり梅見茶屋 小野あらた

・煎餅の粗目眩しき湯冷めかな 小野あらた (小澤實の好きな句)

※小野あらた:1993年生、埼玉県。2010年石田波郷新人賞、2018年度第9回田中裕明賞受賞。所属「銀化」「玉藻」2013年「群青」の発起に参加。

 

・西病棟十階からの梅見かな 神奈川県相模原市‐石崎京子 特選一席

・春嶽も佐内も愛でし梅見せむ 福井市‐漆崎惣章 特選二席

・鉄柵をすり抜けてゆく梅見かな 浦安市‐小笠原啓太 特選三席

・みづうみに青空滲むる梅見かな 福島県‐斎藤秀雄

 

▼小野あらた第一句集『毫』(ふらんす堂、2017年8月)

「第9回田中裕明賞受賞」

 時に心へ時に人へ時に自己愛へとふり注ぐ眼差しは鋭くまた優しい。彼にしか見えないもの彼にしか興味の湧かないもの、しかし一旦作品になってしまうとその世界は人を覆い尽くすぐらい魅力的だ。今の若さは更に感受性を増してゆくものと私は確信している。今しか詠えないものはこの句集の中に沢山入っているが未来の作品を読みたくなるのは私だけではない筈。ナイーブでアニミズムの最先端を開拓してゆく力のある一書だ。(星野高士)

 

〇自選十二句より

弁当の醤油の余る小春かな

年用意聖夜の飾り取ることも

湖を船は出られず細雪

古草の高さに風の吹いてをり

春光や飯にかけたる塩見えず

壺焼に炎の先の触れにけり

月光の濁りつつある船料理

葛餅の蜜の届かぬ角三つ

梅の無きところ反りをり梅莚

頂へ手摺の続く涼しさよ

 

〇関悦史「閑中俳句日記」から【十五句抄出】

 絵も文字も下手な看板海の家 ・かたつむり殻傾いてをりにけり ・鳥の糞青葉の上に乾きけり ・しぼませて浮輪の紐の長きかな ・梨の花洗濯物は風に冷え ・汐干狩間を鳥の歩みけり ・母の日やマッサージ機に顔震へ ・ほかの色欲しくなりたるかき氷 ・作り滝よく濡れる石濡れぬ石 ・壺焼に炎の先の触れにけり ・硝子戸に旅館の名前帰り花 ・雑煮椀餅を捲れば具沢山 ・春近しモデルルームに寝てみれば ・葛餅の蜜の届かぬ角三つ ・根の先の丸まつてゐるヒヤシンス

 

▼2/14NHK俳句。題「春一番」。選者・対馬康子、司会・武井壮。

・ひかりのように解ける数式春一番 対馬康子

・春一番紅鶴の脚揃ひけり 武井壮 ※「紅鶴」:フラミンゴ

 ゲスト・絵本作家の五味太郎「とりあえず春一番は塁にでろ」

 

・海神に深くうなずく春一番 兵庫県‐吉川佳生

・泉門のたふたふ笑ふ春一番

※「泉門」:新生児の頭蓋骨の境目で、骨化がまだ進んでいない結合組織膜の部分。

 

「春一番」:立春後、はじめて吹く強い南寄りの風。この風で草木の芽がほどけはじめ、春の本格的な訪れとなる。元々は壱岐や能登地方の漁師の間で使われていた言葉で、海難事故の原因とされた春に起こる強い南風。「春一番競馬新聞空を行く」(水原春郎)

 

   

▼2/21NHK俳句。題「下萌」。選者は西村和子、司会は岸本葉子。

・萌え出づるものの匂ひや漱ぐ(西村和子)

・草萌や瓦礫ばかりと思ひしに 神奈川県小田原市 天野信敏 特選一席

・杖の手に地球の鼓動草萌ゆる 熊本県熊本市 吉田丈夫 特選二席

・球磨川の復興遅々と下萌ゆる 熊本県荒尾市 荒尾孜 特選三席

・放牧の杭打ちの音草萌ゆる 埼玉県越谷市 大西順子

・雨上がるたび下萌の濃くなりぬ 大阪府枚方市 林 弘

 

 ゲストのやく・みのるさんが父子草(キク科ハハコグサ属)の話をしていた。

 特徴を見れば母子草(季・晩春)と似た点は多いが、母子草が白い毛に包まれた柔らかな姿に黄色い花が映えるのに対して、この植物には全体に色気が少ないそうだ。

 春の七草のオギョウは母子草のロゼット(根出葉)である。

「父子草母子草その話せん 高野素十」「老いて尚なつかしき名の母子草 高浜虚子」

 

「ようこそ句会へ」―「近場のひとり吟行」

➀朝起きて、外の空気を吸って一句:遠目にも今朝十あまり藪椿(西村和子)

②家からの外出で一句:吹き出しのかたち軽やか春の雲(西村和子)

※一日の中で、意識して、ある感慨を句にするのは面白い。

 

「下萌」:早春、去年の枯草に隠れるように草の芽が生え出ること。下萌の「下」は「枯草の下」の意。下萌には、確かな春の訪れと厳しい冬を耐えた生命力が感じられる。

「下萌ぬ人間それに従ひぬ 星野立子」「下萌えや脈打つ生命野に山に 宮地静雄」